海の中で一番強い生き物は、トドやクジラまでおそって食べる哺乳類(ほにゅうるい)「シャチ」です。観察(かんさつ)できる海は、アイスランドはじめ世界で6カ所ほどしか知られておらず、日本では道東だけ。釧路沖(くしろおき)と羅臼沖(らうすおき)、北方領土(りょうど)近海などでよく見られます。昨秋には、シャチを観光に生かせるかどうか調査するため、釧路港(くしろこう)からウオッチング(観察)船が出て注目されました。よそではなかなか見られない“海の王者”シャチは、なぜ道東に集まるのでしょう。《編集委員(へんしゅういいん) 久田徳二(ひさだとくじ)》
道東沖(おき)、えさの生き物多く 観光にいかせるか調査
シャチは英語で「キラーホエール」。「殺し屋クジラ」という意味です。体長は7メートルくらい、体重は8トン前後あるクジラの一種ですが、するどい歯で大型クジラまでおそって食べるから、そんな風に言われるんだ。アイヌ民族は「レプンカムイ」《「沖(おき)の神様」の意味》と呼(よ)んでいます。
北極海から南極海まで、哺乳類(ほにゅうるい)の中でも最も広い範囲(はんい)にすみ、群れで行動しています。グループごとに、すむ場所やえさがちがうのがとくちょうなんだ。決まったせまい海域(かいいき)にとどまってくらすグループもあれば、広く泳ぎ回るグループなどもあります。
北米の太平洋岸ではサケ、マスなど魚類ばかり食べるグループのほか、トドやイルカを食べている群れも知られています。道東ではアザラシ、イシイルカ、ミンククジラなどをおそう姿(すがた)が確認(かくにん)されているんだ。昨年私(わたし)が釧路沖(くしろおき)で船から観察した時も、クジラを追いかけていたよ。
道東に集まる理由は、海が豊(ゆた)かで、えさになる生き物が多いからなんだ。
地図にあるように、千島海流(寒流)と日本海流《暖流(だんりゅう)》などがぶつかる道東沖(おき)には、暖流(だんりゅう)に乗って北上する魚と、寒流のもたらす豊富(ほうふ)なプランクトンが集まります。オホーツク海からの東樺太(ひがしからふと)海流や流氷にも栄養がいっぱい。そこへ魚を求めるトドやイルカ、クジラが多く集まり、これらを食べるシャチも集まるんだね。
生物同士の「食べる」「食べられる」関係を、くさりのようにつないだようすを「食物連鎖(しょくもつれんさ)」と言います。イラストのように、海の中では、シャチは「食べる」側の一番端(はし)に位置します。多くの生物が、シャチの命を支(ささ)えているともいえるのです。
※どうしんウェブより
※どうしんウェブより