※写真、(左)わにバーガー(サメ肉のハンバーガー)と、(右)ネズミザメの切り身を持つ藤田恒造さん=広島県三次市廻神町:朝日新聞より
山陰地方に伝わる神話「因幡の白うさぎ」にワニが登場する。海を渡ろうとしたウサギにだまされて並び、背中を踏まれて怒ったワニはサメのことらしい。
フカヒレで知られているように、サメは「フカ」とも呼ばれる。だが、三次(みよし)市など広島県の山間部では今も「ワニ」と言う。排尿器官が未発達なサメは体内にアンモニアがたまりやすい。そのため腐りにくく、山陰から中国山地まで運んでも生で食べられた。乾物や塩物でない「無塩(ぶえん)」の魚の刺し身は、秋祭りや正月などハレの日に欠かせないごちそうだった。
今でも三次市内のスーパーではワニの刺し身が売られている。市中心部の和食店「むらたけ総本家」の前には「三次の味 ワニ入荷」の看板が立っていた。いけすには漁師からもらったネコザメとカスザメが泳いでいる。ただし、料理に使うのは大きなネズミザメ。筋の少ない腹の身をブロックで仕入れる。最近は九州産が多いという。
ワニ料理フルコースが並んだ。「三次カジキ」の呼び名もあるように、刺し身は薄いピンク色。ショウガじょうゆで食べると、ねっとりとした食感で、臭みもなく淡泊な味だった。一方、熱を加えた湯引きや天ぷら、陶板焼きは、鶏肉のササミのような歯ごたえ。女将(おかみ)の村竹美保さん(46)は「身の締まる冬がワニの一番おいしい季節です」と話した。
中華まん、ホットドッグ、焼きそば、丼……。広島三次ワイナリーに近い総合食品店「フジタフーズ」では、20種類近いワニ料理が食べられる。2008年、ワニ肉ハンバーグをはさんだ「わにバーガー」を売り出して以来、店主の藤田恒造さん(66)が次々と考案した。軟骨や皮から抽出したコラーゲンを使ったプリンもある。
店に社会見学に来た地元の小学生にワニのことを聞いたことがある。半数以上が食べたことがなかった。「ワニを昔の食べ物にしてはいけない。三次食文化の核として、ゲテモノではなく、低カロリー、高タンパクなヘルシー食材としてアピールしていきます」
むらたけ総本家(0824・63・0666)は定休なし。ワニ料理フルコースは1人前4200円(要予約)。フジタフーズ(0824・66・1082)は不定休。わにバーガー410円。
三浦宏氏 (2016年3月12日14時09分の記事)