命との向き合い方 ベテラン海獣医師の勝俣悦子氏 

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海獣医師の勝俣悦子氏

※写真、シャチと一緒に舌を出してポーズする海獣医師の勝俣悦子先生:週刊女性PRIMEより

■イルカの人工授精を成功させた海獣ドクターが語る、命との向き合い方
週刊女性2016年8月9日号
ベテラン海獣医師の勝俣悦子さんが、チャーミングな笑顔を見せて言う。

「40年前、私が『鴨川シーワールド』に就職したときは、まだ魚の延長でイルカを飼うような時代。水族館専属の海獣医師なんて、珍しかったんですよ。

 シャチ、アザラシ、セイウチ、イルカなど、水族館で飼育される海獣を専門に健康管理や繁殖のお手伝いをするのが私の仕事。毎朝、30分かけて行う回診から1日が始まります。陸の動物と違って、海獣は顔の表情がわかりにくい。普段から動きを観察し、少しでも変だと感じたら〝なぜ、いつもと違うのか〟と考える。異変にいち早く気づくための〝謎解き〟です」

 判断が当たることもあれば、はずれることもあるが、勝俣さんは言う。

「どちらも発見。観察を続けるしかない」

 10年かけてようやくある程度、見抜けるようになったという。

 観客席から動物たちのパフォーマンスをチェックすることも欠かさない。

「ジャンプの高さや反応の早さ、動きを確認しています。でも、ほとんどお客さんと同じ目線で楽しんじゃってるんですけどね(笑)」

 そう愛嬌たっぷりに話すが、実は世界的に注目されるすごい経歴の持ち主。不可能と言われたイルカの人工授精を日本で初めて成功させた「繁殖」のプロフェッショナルなのだ。

「30年ほど前、当時の館長が〝将来、イルカが海からやって来なくなるかもしれないから、自前で繁殖させていきたい。そのために人工授精の技術が必要だ〟と言っていました。イルカの繁殖期すらわからなかった時代でしたが、20年かけてようやく成功。館長が予見したとおりになりました」

 数々の繁殖に取り組むうち、〝女性目線〟の重要さにも気づいた。

「普段パフォーマンスをするイルカでも、妊娠したら控えてあげるとか、どこで出産させるかなど、出産までの日々を思いやってあげる人がいるのといないのとでは全然違うんですよ」

<〝先生〟は私じゃなくて動物たち>

 もっとも楽しみにしているのは、担当動物の子育てを見ることだ。

「長年一緒にいた動物が、どうやって子育てしていくかを見るのが生きがいなんです。書きためた〝子育て記録ノート〟は、今でも私の大事な宝物ですね」

 愛情深く子の面倒を見続けるセイウチ、母を中心とする家族単位で行動するシャチ、脂肪たっぷりのお乳を1か月与えたら、すぐ次の発情期を迎えて去るアザラシの育児など、観察に飽きることはない。

 仕事の苦労が報われるうれしい瞬間を尋ねると、

「シャチのショーなどを見に来てくれたお客さんが手をたたき、歓声をあげて喜んでくれるときですね。ドヤって気持ちになります(笑)。シャチってすごい動物だな、こんなに人間と仲よくなれるんだ、と伝わるとうれしい。

 水族館にいる動物は、野生の仲間と人間の間に立って動物たちの素晴らしい

能力や生態を伝える仕事を担っていると思っています。そんな動物を粛々と見守り健康管理の面でサポートしてあげるのが海獣医師の役目。先生は私じゃなくて、〝動物〟なんですよね」

 獣医師として働いて40年。命との向き合い方にも覚悟が見える。

「生まれる命があれば死にゆく命もあります。悲しみがないといえば嘘になりますが、〝なぜ死んだのか〟を血液検査から判断し、次の動物に生かす。その繰り返しだと思ってるんです。解剖には、死んだ個体が残した最後のメッセージが詰まっていますから。失敗は成功のもと、ですね。

 引退まであと2年ですが去年流産に終わったバンドウイルカの人工授精を成功させたいですね」

【プロフィール】

<勝俣悦子さん>

1953年、東京生まれ。日本獣医畜産大学(現・日本獣医生命科学大学)獣医学科卒業後、1977年に鴨川シーワールドに獣医師として入社。海獣類の健康管理や治療などを担当する傍ら、海獣類の人工授精に取り組み、2003年にはバンドウイルカの人工授精に日本で初めて成功。2004年「日本動物園水族館協会」の古賀賞を受賞、2005年「飼育海生哺乳類の繁殖に関する研究」にて獣医学博士号取得。

※201
6年7月30日の週刊女性PRIMEより
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