高速船・衝突 原因はクジラか 2016年相次ぎ12人けが 毎日新聞

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シートベルト

※写真、シートベルト着用を呼びかける高速船内の張り紙=2016年3月24日午後3時50分、川上珠実氏撮影

■九州運輸局、各社に対策強化を要請


 日本近海で高速船とクジラとみられる海洋生物との衝突事故が相次いでいる。2007年以降、年間0~2件で推移してきたが、今年は既に3件発生し、計12人がけがをした。春はクジラが九州近海を回遊する時期に当たり、衝突の危険性も高まる。離島が多い九州は高速船の運航会社が全国で最も多く、九州運輸局が各社に対策の強化を要請した。

 「クジラやイルカなどの海洋生物との衝突事故が頻発しています。安全のため、シートベルトの着用をお願いします」。九州郵船(福岡市)の博多行き高速船が長崎・壱岐を出港して間もなくすると、船内にアナウンスが流れた。シートベルトを着けていない乗客がいないか乗組員が巡回する。座席のすぐ前の壁などには、万が一の時の衝撃を和らげるためクッションが張られていた。

 高速船の機関長として衝突事故を経験したことがあるJR九州高速船(同市)の男性社員は「いきなりドーンという大きな衝突音が響き、浮き上がった船体が着水する時に大きく揺れた」と事故の衝撃を振り返る。

 高速船の運航会社は全国に7社あり、うち4社が九州に集中する。一方、クジラは1〜4月ごろにかけて、九州近海を通ってカムチャツカ半島方向へと北上するため、春先は特に目撃情報が増える。各社は「水面に浮上したクジラは事前に発見すれば回避できるが、水中のクジラは避けきれない」(九州郵船)と神経をとがらせ、特にクジラの目撃情報が多い海域では乗組員が見張りに立ち、スピードも落としている。

 九州運輸局によると、クジラとみられる海洋生物と日本船籍の高速船の衝突事故は、06年は全国で6件あったが、07〜15年は多くても2件だった。だが、今年は年明けから事故が連続したため、同運輸局は3月、クジラ類が嫌う音を水中で流すアンダーウオータースピーカーの活用▽クジラの目撃が特に多い海域での減速▽シートベルト着用の徹底−−などの対策を講じるよう4社に通知した。

 九州運輸局が把握するクジラとの衝突事故はすべて高速船だ。通常の船は水中のスクリューを推進力として航行するが、高速船はジェットポンプで海水を噴射して海面から浮上して走る。クジラの生態に詳しい東京海洋大の加藤秀弘教授は「クジラは音に敏感でスクリュー音を聞けば船を避けるが、高速船は他の船に比べ非常に静かでクジラは接近に気付かない」と指摘する。

 それにしても、なぜ今年になって突然増えているのか。06年2月から3月にかけて韓国−博多間で衝突事故が4件相次いだことを覚えている九州の乗組員の間では「10年周期説」がささやかれるが、加藤教授は「科学的根拠は希薄」と指摘する。

 全国底曳網(そこびきあみ)漁業連合会によると、05年に全国で414隻あった15トン以上の大型トロール船は344隻(今年1月)に減少している。加藤教授は捕鯨禁止による捕獲数の減少のほか、「大きなノイズを発生させるトロール船の数が減ってクジラが日本の沿岸に近寄りやすくなり、高速船の航路に入るようになったのも事故増加の一因では」と話している。【川上珠実氏】(2016年4月14日の記事)
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