教育・しずおか 親から子へ・ニュースの基本 クジラと高速船衝突 事故防止対策に限界 静岡 毎日新聞より 2016年2月13日

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毎日新聞 クジラ

■教育・しずおか

親から子へ・ニュースの基本 クジラと高速船衝突 事故防止対策に限界 静岡
(毎日新聞2016年2月13日 地方版より)


<ソナー、UWSも最後は目視>


 Q 伊東市から東京・大島に向かっていた東海汽船の高速船が、クジラとみられる海洋生物とぶつかったね。海面が真っ赤に染まる映像を見てびっくりしたよ。


 A 6日に大島沖で起きた事故だね。乗客69人にけがはありませんでしたが、衝突(しょうとつ)したとみられるクジラは死んでしまったようです。


 Q かわいそうに。現場の海域はクジラは多いのかな?


 A 大島沖は、子育てのために北の海から小笠原諸島(おがさわらしょとう)や沖縄諸島に向かうマッコウクジラやザトウクジラの通り道なんだ。大きく成長した雄は体長20メートルほどになるものもいます。息継(いきつ)ぎで急浮上(きゅうふじょう)してきたり、海面近くで波間に紛(まぎ)れて寝ていたりすると、発見が遅れて衝突を回避するのが難しいそうです。


 Q 急には止まれないんだね。


 A 東海汽船は船に見張りを5人付けている他、クジラの目撃情報が多い海域では通常より減速して航行しているそうです。大島周辺の目撃情報は、2〜3月と6〜7月が1年間で最も多いそうだよ。


 Q クジラの数自体が増えているって聞いたけど?


 A クジラの生態(せいたい)を研究している東京海洋大の加藤秀弘教授(鯨類(げいるい)生態学)によると、海洋環境の改善や捕獲(ほかく)が減ったため、日本近海ではクジラが繁殖(はんしょく)する海域が増えていて、昔は小笠原諸島や沖縄諸島だけだったのが、最近では八丈島や奄美(あまみ)諸島の付近でも繁殖が見られるようになったそうです。今後数十年でさらに増えると予測しています。


 Q 貨物船やフェリーもたくさん航行しているはずだけど、高速船だからぶつかりやすいのかな?


 A ジェットエンジンで海水を噴き出し、浮き上がって航行する高速船の音は、クジラには聞こえにくいそうで、「クジラにとっては電気自動車のようなもの」とも言われています。九州地方でもクジラと高速船の事故が多く起きていて、2007年には1人が死亡、数十人がけがをする事故が発生しました。東海汽船も安全対策として、前方の障害物(しょうがいぶつ)を探知するソナーやクジラが嫌う音声を発射する装置「UWS」を活用しているんだよ。


 Q それでも事故は防げないんだね。


 A 国土交通省は「ソナーやUWSがあまり奏功(そうこう)していないので目視に頼るしかなく、対策には限界がある」と認めています。東京海洋大を中心にUWSの開発を行っているけれど、大きいクジラが使う低周波の音を効果的に出すためにはスピーカーの改良が必要なんだ。改良型のUWSはまだ試験段階で、普及にはもう少し時間がかかるようです。


 Q しばらくは目視に頼らざるを得ないんだね。


 A うん。海外では高速船の運航を控える動きもあるようですが、海洋国家の日本は離島が多く、住民にとって高速船は生活を維持するために不可欠な「生命線」とも言えます。人間とクジラたちが共存できる方法を何とか考えていきたいね。
【荒木涼子氏】

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