名古屋港水族館の獣医師 大野佳氏

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獣医師

※写真:中日新聞より

 採血のチャンスは一瞬。トレーナーの合図で、プールサイドにいるイルカの尾びれに手際良く針を刺す。名古屋港水族館(名古屋市)のイルカの定期健診。「暴れると、検査結果に影響が出る。安全に、正確に検査するにはトレーナーとの連携が大切」と水族館専属の獣医師、大野佳さんは言う。一~二分で採血し終わると、トレーナーがご褒美の魚をあげた。

 「動物にとって、獣医師は痛いことをするだけの嫌われ役なんです」と笑う。

 イルカやシャチ、アザラシや魚など水族館で飼育する五百種、計五万匹(頭)の健康と命を預かる。健診は月一回で、全種を診る。一通り終わってもすぐに次の健診。血糖値や肝臓、腎臓の機能などを診て結果に応じてエサの量や内容、運動量も調節する。

 イルカは謎が多く、治療が難しい。この日、採血したバンドウイルカの「セナ」は、二年前に肺の病気で一時重篤な状態に。従来の薬物療法で改善しなかったため、米国で開発された新しい療法を国内で初めて試み、救った。

 海獣の繁殖にも力を入れる。雌の排卵日を予測して雄と引き合わせるなどし、これまでイルカやシャチなど九頭の誕生に関わった。今も三頭のイルカが妊娠中で、早ければ六月中にも一頭が生まれるという。

 悲しい経験もある。獣医師になって二年目の二〇一〇年、シロイルカのベルーガが出産直後に育児放棄したため、人工保育に切り替えた。カテーテルを胃まで入れて人工ミルクを数時間おきに、授乳するなど何日も泊まりがけで母親代わりに世話をしたが、四十五日目に死んだ。

 大阪府茨木市出身。子どものころから生きものが大好きで、家中捕まえてきた魚やカメ、ザリガニだらけ。ただ、一番好きだった犬は飼わせてもらえず、その思いが獣医師を志すきっかけに。魚や昆虫も含め、あらゆる生きものと関われる水族館を選んだ。

 夢はイルカの人工授精。イルカ漁問題で入手ルートが限られる中、人気者の確保は待ったなしの課題だ。「スタッフの力を合わせ、増やしていきたい」
(文・山本真嗣氏、写真・加藤晃氏)
2016年6月6日の中日新聞記事
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