※参考写真、オナガザメの一種、マオナガ:wikipediaより
■南方の魚 能登沖に次々
<温暖化で生息域北上?対馬海流に流されて?>
石川県の能登沖で最近、本来はこの海域に生息していない南方の魚が見られるようになっている。地球温暖化のほか、海流の影響を指摘する専門家もいる。世界農業遺産に認定された豊かな「能登の里山里海」周辺の変化。どんな魚が現れ、なぜ能登沖に来ているのだろうか-。(松村真一郎氏)
「これまでも珍しい魚が年に数回見つかったことはあったが、ここ一年くらいはクサビフグやメイタイシガキフグなど、今まで見られなかった沖縄周辺海域やインド洋にすむ魚が、これまでにない頻度で見られる」。のとじま水族館(同県七尾市)の池口新一郎副館長は興奮気味に話す。
1982年から34年間にわたり、七尾市沖や同県志賀町沖の定置網や刺し網で捕まった珍しい魚を記録してきた能登の海の観察者。ハリセンボンの仲間で、体がとげで覆われているメイタイシガキフグは、池口さんが確認しただけでも五匹。これまでも能登沖の定置網で捕まることはあったものの、年に一匹いるかいないか程度。「これほど立て続けに捕まったことはなかった」と驚く。
他にも、沖縄周辺海域に生息しているオナガザメの一種のマオナガやタカサゴ、南シナ海や房総半島以南の太平洋側で生きるソコイトヨリなど「生まれて初めて見た」(池口さん)種類が見つかっている。
東海大出版会刊行の魚類図鑑「日本産魚類検索」の最新版には、マオナガとタカサゴの生息分布に能登沖や富山湾は記述されておらず、本来であれば能登周辺では見られない。ソコイトヨリは研究者から「日本海では初」と連絡があるほど希少価値は高いという。
<富山、福井でも>
海の異常事態は能登ばかりではない。富山県魚津市の魚津水族館の担当者は「昨年は熱帯や亜熱帯に生息するアオイガイが定置網で十匹ほど捕まっており、例年の一、二匹と比べると頻度は多い」。福井県坂井市の越前松島水族館の担当者も「昨年十一月中旬に定置網で暖かい海域にすむキハッソクが十数匹捕まり、水族館に移して展示した。過去にも捕まえられたことはあったが、これほどまで多いのは珍しい」と語る。
南方の魚が頻繁に能登沖で見られるのは、どうしてだろうか。日本海の海洋研究に取り組む新潟大理学部付属臨海実験所(新潟県佐渡市)の安東宏徳所長は、地球温暖化との関係を指摘する。「温暖化の影響で、日本海の海面水温は徐々に上昇している。それに伴って、南方の魚の生息域が北上している」との見方を示す。
気象庁が昨年発表した統計によると、能登沖を含む日本海南西部の海面水温は、この百年で一・二七度上昇しており、日本近海の中でも上昇率の高い海域となっている。富山県農林水産総合技術センター水産研究所(滑川市)の調査では、富山湾の今月五~六日の海面水温は、平年よりも一・〇八度高い一四・三二度で、担当者は「十年に一度の高さ」と話す。福井県水産試験場(敦賀市)の担当者は「若狭湾周辺での昨年十二月上旬の海面水温は、一六度から一八度と平年並みで推移している」とし、海域によって海の状態は一様ではない。
池口さんの分析はこうだ。「日本海を北上する暖流の対馬海流によって流されて来た」。見つかる魚は幼魚が多く「成魚に比べて泳ぐ能力が低いため、潮の流れに流されやすい」というわけだ。今後の海面水温上昇の可能性に触れる安東さんは「南方の生物が対馬海流に乗って北上することは十分に考えられる」と、さらなる海の変化を予想する。
「珍しい魚が捕まれば、水族館としては展示する魚が増える」(池口さん)と、今まで北陸では見られなかった魚を地域の水族館で楽しむことができる可能性が膨らむ。一方「海面水温上昇は深海魚の生理状態に異常をきたし、本来生息する水深から上がってきてしまう」と安東さんは指摘する。南方から北陸へ来る魚の確たる要因は不明だが、なんらかの海の環境変化が身近に現れているのは確かだ。
※中日新聞より
※中日新聞より
■マオナガについて
マオナガ(真尾長) Alopias vulpinus(Common thresher)は、ネズミザメ目オナガザメ科に属するサメ。世界中の熱帯から亜寒帯海域の沿岸から外洋まで広く分布する。オナガザメ類では最大で、全長7.6mに達する。外見はニタリ A. pelagicus と非常に類似し、しばしば見間違えられる。小魚などを尾鰭で攻撃し、捕食する。
※wikipediaより
※wikipediaより